りぼんの読書ノート

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刻まれない明日(三崎亜記)

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失われた町の続編というより、姉妹編とでも位置づけられる作品でしょうか。突然3095人の人間が消え去った事件から10年。大切な人を失った人々が、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとする姿を描いた小説ですが、三崎さんのシュールさが薄まっているのが気になります。

消失範囲の内側にいながら「消え残った」ものの、それまでの記憶を失った沙弓は、10年ぶりに町に戻り、「歩くことによって道路という概念を固定化」している歩行技師の男性と知り合い、助手として街を歩き通すことを志願します。

図書館に勤める藤森麻衣は、消失した「第五分館」から今でも届く「分館だより」を配って歩く「担当者」と出会いますが、消えた人たちの貸出記録が激減している事に気付いてしまいます。一方、消えた人からのリクエストを受け付けるラジオ局でも、リクエスト葉書が、ここにきて激減しているのです。

それだけではありません。失われた鐘が最後に鳴る日も、失われたバスが最後に運行される日も近づいているし、消失の日以降、街のあちこちに描かれた蝶の絵も消えつつあるというのです。失われた町が、再度失われようとしているのでしょうか・・というのですが、失われた町の、失われた人々が、今までどこかで活動していたこと自体が謎ですよね。

最終章で「気化思念」の違法蓄積とか、漏出とかの「種明かし」じみたエピソードが紹介されますが、これはなかったほうが良かったかも・・。ただでさえシュールさが薄まって、「人情小説」になりつつあるのですから。

2011/1