りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ソルハ(帚木蓬生)

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カブールで生まれ育った少女ビビにとっての日常は、戦争でした。彼女が10歳になったとき、既に統治能力を失っていたアフガン政権は崩壊して、カブールを制圧したタリバンによる支配がはじまります。戦争の終結を喜んだのもつかの間、タリバンの統治は残虐で、女性を抑圧するものでした。

発電所の技師であった父親ラマートにも、広い視野を持った兄のカシムにも、タリバンの監視と抑圧は襲い掛かりますが、一番影響を受けたのはもちろん、女教師であった母親のロビーナです。

宗教警察による公開処刑、タジク人ら少数民族の虐殺、バーミヤン石仏の破壊など、暴虐が日常化する中で多感な少女時代を過ごしたビビは、何を決意し生きる支えを持ち続けたのでしょう・・。

タリバン治世下のアフガニスタンについては、すでに多くの作家が書いています。『カブールの燕たち(ヤスミナ・カドラ)』、『廃墟の上でダンス(ミラーナ・テルローヴァ)』、『カイトランナー(カーレド・ホッセイニ)』、『悲しみを聴く石(アティーク・ラヒーミー)』など、どれも臨場感に溢れた作品ですが、日本人の手による小説ははじめてでしょうか。

著者は、福岡県に農業実習にきたカブール大学の女学生ライラに触発されて、この本を著したとのこと。若い人に向けたジュブナイル的な作品であって、アメリカ軍による「解放」を単純に是認するなど気になる点も多いのですが、「平和」の意味を持つ「ソルハ」のタイトルに、著者の思いが込められています。

2010/8