「恩田ホラー」全開の小説です。女流作家が1人で暮らす、丘の上の二階建ての旧い家。幽霊屋敷と噂されるその家では、様々な猟奇事件が起きていました。さらわれてきてカニバリズムの餌食になった子どもたち。アップルパイが焼けるキッチンで互いに刺し合った姉妹。3人の少年たちが自殺した日に、床下で自殺した美少年の殺人鬼・・。
この家を舞台とした数々の事件が、連作短編の中で明らかになっていきます。それらの事件をひとつひとつ小出しにしていく書き方も「ちょうどいい」。
これまで亡くなった無数の人々と較べて、幽霊の話は少なすぎますね。「我々は失敗しつつある」にあるように、幽霊となることは難しいのです。
「俺と彼らと彼女たち」で、幽霊なんてどこにでもいもので、共存できるとしたあとの実質的な最終章「私の家へようこそ」で、女流作家が取り憑かれていくようなエンディングまでは、流れるような展開でした。恩田さんには、このくらいの長さの小説が「ちょうどいい」ようです。
ただ書き下ろしの最終章「われらの時代」で、物語全体を「入れ子構造」にしてしまったのは余計だったかな。
2010/8