りぼんの読書ノート

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アメリカ大陸のナチ文学(ロベルト・ボラーニョ)

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元ナチの高官が潜伏するなど、ナチと南米との間に深い関係があることは史実ですが、本書は「架空の親ナチ作家列伝」です。特徴的なのは、彼らは欧州からの訪問者ではなく、南米や北米に生まれ育ってナチ思想に親近感を抱いた者たちであるということ。ナチに象徴される暴力と排他への共感は「モンスター」として、地域、人種、時代を越えて生まれ続けているのでしょう。

本書に登場する30人の詩人・作家たちは、それぞれ生年月日を付され、主要作品や略歴が紹介されていきます。赤ん坊のころにヒトラーに抱かれた写真を生涯の誇りにする女流作家。壮大な「第四帝国サーガ」で人気を博したSF作家。理想の強制収容所の見取り図を描いた作家。小説の各章の冒頭文字が「アドルフ・ヒトラー万歳」となるように仕組んだ作家。

内戦下のスペインに渡って看護士を務め、フランコ軍兵士から天使と呼ばれたカトリックの女流詩人。小説内の全ての罪をユダヤ人に追わせた作家。ボカ・ジュニアーズフーリガン集団を率いるアルゼンチンの詩人兄弟。刑務所内で親ナチ文学の同人誌を発行し続けた囚人。ボラーニョの小説では馴染みの概念である、剽窃、失踪、暴力、犯罪という運命に陥った者も少なくありません。

そして最後に「忌まわしきラミレス=ホフマン」が登場します。独立した中編はるかな星であらためて描かれることになる、「魅力的な詩人でありながら大量殺人者である」人物の存在感は、他の29人と比べても際立っています。モンスターである絶対悪に対しては、嫌悪感に加えて、ある種の共感を抱いてしまうこともあるのかもしれません。何とも決まり悪い感情なのですが。

2018/9