りぼんの読書ノート

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森へ行きましょう(川上弘美)

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ひのえうまの1966年の同じ日に生まれた留津とルツは、パラレルワールドに生きた同一人物のようです。よく似た境遇に生まれて同じ人物たちと出会いながらも、進学、就職、恋愛、結婚、出産という選択肢の中で、2人の人生は大きく隔たって行くのです。

中高一貫の女子高から女子大の文学部に進んで、中堅の薬品会社に就職したものの、友人に紹介された男性と結婚して専業主婦となり、厄介な夫と義母に振り回される留津。公立高校から理学部を卒業して研究所の技官となり、奔放な恋愛を経て独身のまま過ごすルツ。ここまでは、まあまあ対照的な人生を歩んでいるという物語。

しかし彼女たちが40代の半ばを迎える頃から、人生は複雑さを増していくのです。それぞれに経験した東日本大震災もきっかけのひとつだったのでしょうか。留津は小説を書きはじめ、ルツはバツイチ男性と結婚。その相手が、別の世界では留津がずっと別れたがっていた夫・俊郎というあたりは微妙ですが、彼の人生も大きく枝分かれしていたようです。

そして留津が綴る小説の主人公とも思しき、留津やルツの分身たちも現れてきます。妻子ある俊郎と不倫中の琉都。夫を殺害してしまった瑠通。早逝してしまったる津。鏡に映った留津と入れ替わってしまったような流津。「人生という森の中を歩いてきて、この先にはまだ道はなくて、どこに歩いて行ってもいい」という感覚を、嬉しく思うのか。それとも厳しさを感じるのか。いずれにしても、「だからこそ人生という森は深く、愉悦に満ちている」のです。

2018/9