りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

保健室のアン・ウニョン先生(チョン・セラン)

韓国女性作家の小説というと最近ではフェミニズム小説の印象が強いのですが、本書は娯楽ファンタジーです。しかし『韓国文学の中心にあるもの』の著者である斎藤真理子さんがシリーズで翻訳している作家の作品でもあり、単純に読み飛ばすわけにはいかない内容が含まれています。

 

養護教諭のアン・ウニョンが赴任してきた私立高校では、原因不明の怪奇現象た不思議な事件が次々と起こっていました。実は彼女には霊能力があり、BB弾の銃とレインボーカラーのおもちゃの剣を持って邪悪なものたちに立ち向かってきたのです。彼女がそこで出会ったのは、創業者の孫である漢文教師のホン・インピョ。彼は霊能力など持っていませんが、祖父の愛情が遺してくれた大きな保護オーラに包まれており、ウニョンにとって力の増幅器の役割を果たすことになります。

 

高校でウニョンを待ち受けていたものは、地下室に鎮められていた過去の自殺者の霊、邪悪な種子を育てるアメリカ生まれの英語教師、何度も生まれ変わっては悪いムシを取り去る役割を担っている不思議な転校生、ウニョンの亡くなった初恋の人の幽霊・・。高校生たちが無邪気に生み出し続けるエロエロパワーなんて可愛いもんですね。そして2人はついに校庭の地下から出現した巨大な龍と対峙することになるのです。

 

龍の背中に彫られた大企業のロゴや、龍が飲み込んでいた制服や、龍の眼や鼻を苦しめていた真珠や鼻輪の由来などは、一部の財閥企業に富が集中することの害悪を象徴しているのでしょう。斎藤真理子さんによると、「男前の彼女」のようなアン・ウニョン先生のキャラは、著者自身とも重なっているとのこと。花柄大好き乙女なのに化粧には無頓着で、「疲れた」が口癖なのに意欲溢れる行動を取ったり、社会の壁に悩みながらっも戦い続けている女性・・かなり魅力的です。

 

2023/1