りぼんの読書ノート

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四畳半タイムマシンブルース(森見登美彦)原案:上田誠

劇作家の上田誠さんが主宰しているヨーロッパ企画という劇団の代表作である「サマータイムマシーン・ブルース」を、著者初期の傑作である『四畳半神話体系』の世界で小説化した作品です。上田さん言うところの「魔改造」ですが、まるで『神話体系』の第5章のようにぴったり嵌まりました。もともと『神話体系』はパラレルワールド世界を描いたSFテイストたっぷりの作品なので、タイムマシンとの相性もいいのです。

 

今にも倒壊しそうな学生アパート幽水荘の四畳半に暮らし続け、無為に過ぎ去った2年数カ月の学生生活を悔やむ「私」。唾棄すべき妖怪的親友の「小津」。隣室同じアパートの2階に住む謎の存在「樋口師匠」。映画サークル「みそぎ」のボスである尊大な「城ケ崎先輩」。ポンコツ映画を量産し続ける黒髪の乙女「明石さん」。このあたりは既にお馴染みの存在ですね。

 

そんな彼らの前に突然現れたのが25年後の世界から訪れてきた青年。彼が乗ってきたタイムマシンに乗って、1日前の世界に向かう登場人物たち。彼らの目的は壊れる前のエアコンのリモコンを入手することだったのですが、過去と現在の整合性を破壊したら、銀河宇宙が崩壊の危機を迎えるというのです。かくして面々は論理矛盾を回避すべく、四畳半・銭湯・キャンパス・糺の森を右往左往する羽目に陥ってしまうのでした。

 

明石さんが制作したポンコツ映画「幕末軟弱者列伝」、謎のサークルのひとつである「京福電車研究会」、ヴィダルサスーンのシャンプー、幽水荘に伝わるカッパ伝説、そして『神話体系』読者にはおなじみの「もちぐま」などのエピソードが入り乱れ、ラストでへ思わぬ展開で恋が成就する予感を漂わせる本書は、まさしく著者が得意とする「青春を盆地鍋で煮しめたような法外なカロリー」が詰まった作品でした。

2023/1