りぼんの読書ノート

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太陽と乙女(森見登美彦)

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京都大学大学院に在籍していた2003年に『太陽の塔』で鮮烈なデビューを飾って以来、京都を舞台にした不思議な世界を書き綴ってきた著者の「決定版エッセイ集」です。何が決定版かというと、デビューから17年分のすべてのエッセイが、この文庫本1冊に収まっているからなのです。しかしエッセイのオモチロさは、エッセイの数に比例するものではありません。

 

少年のころから書き始めていた物語が、いかに駄作であったか。ずっと記し続けて『大菩薩峠』のボリュームにも匹敵する1万6千枚もの日記が、いかに人前にさらせない内容のものであるのか。作品の登場人物のモデルとなっている、友人の明石君や小津君がいかにユニークなキャラの持ち主であるか。著者が描く京都が、なぜどこにも存在しない場所になり果てているのか。そして2011年から7年間続いた長いスランプとどのように付き合ってきたのか。多くのものが詰め込まれているのですが、愛読者としてもっとも関心があるのは、自書に関係する文章を集めた個所ですね。もっとも「それもまた小説世界の延長であり、捏造である可能性が高い」そうなのですが。

 

万博公園のそばで暮らしていた少年時代から、『太陽の塔』に異次元宇宙の気配を感じて圧倒されていたこと。『四畳半神話体系』が失敗した『現代版リア王』であること。まさかラブドールがコーディリアの役割を果たしていたとは夢にも思いませんでした。著者が綿密な構想を得意とするタイプではないことは感づいてはいましたが。『夜は短し恋せよ乙女』が「己の内なる可愛いものを結集して執筆した」作品であること。ほかにも京都の路地で見たタヌキや、曾祖母が好んでいた赤玉ポートワインや、「ルパン3世」や「千と千尋の神隠し」の冒頭シーンに影響を受けたことなどが綴られています。

 

『夜行』と『熱帯』で復活を果たして「2011年の全休載の後始末は終了した」とする著者がどこに向かうのか、これからも目が離せません。

 

2020/12