りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

幽界森娘異聞(笙野頼子)

イメージ 1

文豪・森鴎外の娘にして、耽美文学の祖。本名は茉莉ながら、エッセイでは魔利やマリアと自称し、自らを投影した文学では主人公をユリアやモイラと名づけた、永遠の夢見るお嬢様。しかも猫好き!

著者は、猫たちを拾った雑司が谷の森で、既に死んだはずの森茉莉の姿を見かけます。著者が「森娘」と呼ぶ森茉莉は、文豪の父親に愛されていた夢見る少女の姿ではなく、生活能力もなく、財産も失って貧乏暮らしをしている、老いた女性の姿で現れました。

森娘の本もエッセイも読んだ覚えがないけれど、国語の教科書にでもあったでしょうか。でも著者が解説する森娘の小説は、決して教科書に載るようなのもではないですね。だって、フランス人とのハーフでエリート美男子の、ギランとかギドウとかいう名前の大学教授が、美少年を愛したり不倫をしたりして、最後には破滅していく物語だったり、小悪魔的な美少女が男を破滅させていく話だったりするのですから・・。

しかも、森娘のエッセイも凄い! お父様のエピソードはともかく、芸能人評は「顔」に対する悪口が大半で無茶苦茶。さらに、かなり食い意地もはってらしたようで、食べ損ねてしまった食事を惜しんだり、食べた食事がまずかったとか、おいしかったとか、そんな話も多いようです。どうやら晩年の森娘は、かなり付き合いづらいひねくれたお婆様だったと、お見受けいたします。

でもそんな森娘に対して、著者は惜しみなく好感を示すのです。そこまで自分の素顔をさらしながら、私生活でも文筆活動でも、勝手気ままに自由自在。世間や他人に媚びたりおもねたりを一切しないあたり、笙野さんと共通するのでしょう。しかも猫好き! まさに「森娘、偉い!」なんですね。文庫版には、著者の作品を絶賛している佐藤亜紀さんの解説もついています。^^

2007/12