りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

シンセミア(阿部和重)

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山形県にある「神町」で、20世紀最後の夏におぞましい事件が相次いで起こります。高校教師の「自殺」、自動車整備工の「事故死」、農家の高齢者の「行方不明」を皮切りに、台風による水害と、洪水によって発見された「木箱の中の死体」、そして町の住民たちが狂騒劇を繰り広げる中で、多くの者が亡くなる大惨事へと、物語は疾走していくのです。

文庫で全4巻のボリューム、60人を超える登場人物、次々と移り変わる視点などから、フォークナーやガルシア・マルケスにも例える書評もあったようですが、しょせんは「田舎ノワール」。この小説のどこがおもしろいのか、最後まで理解できませんでした。

唯一おもしろかったのは「プロローグ」。戦後の一時期には進駐軍が駐留していた神町が、進駐軍と関係を持ったパン屋の田宮家とヤクザの麻生家が町を牛耳るようになるまでの「過去の物語」。

「現在の物語」は、産廃処分場の設置をめぐる賛成派と反対派の思惑、隠しカメラで盗撮を楽しむ青年サークル、ロリコン趣味の交番の警官、不倫を重ねる男女たち・・と、ドロドロした人間の欲望が渦巻くばかり。ほとんど全ての登場人物が不快なキャラで、共感を覚える視点などは皆無。

やはり過去に起きたおぞましい事件の復讐を目論む男性の登場によって、物語はようやく収束に向かい、さほどの破綻も見せずに主な登場人物たちの末路も明らかになるのですが、正直言って疲れました。私には向かない作家のようです。この人の本を読むことは、もうないかな。

2011/5