りぼんの読書ノート

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バッテリー(あさのあつこ)

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佐藤多佳子一瞬の風になれ森絵都ダイブと並んで、青春スポーツ小説の傑作と呼ばれる作品ですが、今まで読む機会がありませんでした。野球という競技では『巨人の星』のイメージが強すぎて「根性やチームワークの物語」という先入観があったのでしょうか。

とりあえず、主人公たちの人物紹介ともいうべき第1巻を手にとってみました。第1巻を読んだ限りでは、これは「野球小説」ではありませんね。自分の才能に自信があるがゆえに、それを重視しない親や周囲に反発する傲慢な少年が、大切なものはそれだけでないのかもしれないと、ちょっとだけ気付く物語。

本書の主人公は、まだ中学に入る前の春休みをすごしている12歳の少年です。微妙な年代に特有の一途さや、優しさと残酷さが共存する複雑な感情や、その感情を言葉にして伝えられないもどかしさについて、悩まざるをえませんし、自分の才能に自信がある分、その悩み方が傲慢に見えてしまうのでしょう。

もちろん大半の場合において、少年が抱く自信などは打ち砕かれることになり、その過程こそが人格形成とか、社会化とか、イニシエーションとか呼ばれるのですが、勝敗がはっきりするスポーツの才能とは、ある意味で残酷なものかもしれません。敗者にとってではなく、勝者にとってです。稀にいる「勝ち続ける」少年は、自信を打ち砕かれる機会に遭遇することのないままに身体だけおとなになっていくのでしょうから。

本書の主人公「原田巧」の場合には、投手としての能力が彼の才能であるのですが、この小説のテーマを描くためには、能力の分野は他の何でもよかったように思えます。この作品は、はじめからシリーズ化が考えられていたのでしょうか。第1巻だけで成立している物語に思えますが、まずは最後まで読んでみましょう。

2010/11