りぼんの読書ノート

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バッテリー 2~6(あさのあつこ)

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正直に言うと、これはバッテリーだけで終えたほうが良かったという印象です。ピッチャーとしての天才的な能力に自信を持ち、ボールを投げることを全てに優先させ、それを理解しない親や周囲に反発する主人公の傲慢さと、その裏に潜んでいる弱さとが、本書の最大の魅力なのですが、彼を人間的に成長させていくのかどうか、答えは始めから決まっていたようですので。

ストーリー的には、とりたてて言うべきこともありません。主人公の巧が招き寄せたともいえる陰湿なイジメ事件によって活動停止となった野球部が、全国ベスト4まで勝ち上がった近隣の強豪中学と対戦することとなり、一度は没収試合となったものの、半年後に再戦するだけの物語。

巧とバッテリーを組む豪やチームのメンバー、対戦相手の中学の天才スラッガー門脇や彼の幼馴染みでありながら彼に複雑な感情を抱く瑞垣や、監督や家族など、多才な人物が登場してきますが、極論すれば巧と豪のバッテリー以外は、すべてオマケです。どう考えても、6巻もの長さを必要とするテーマではないんですね。

ただし6巻までひたすら同じトーンで書き続けたことが、おとなと子どもの間にいる中学生という微妙な年代に特有の一途さや、優しさと残酷さが共存する複雑な感情や、それを言葉にして伝えられないもどかしさについて、深く掘り下げていくことを可能としたようにも思えます。その部分が評価されての「傑作」扱いなのでしょう。

野球のバッテリーを題材としていますが、野球でなくてもよかったのかもしれません。著者が主人公に託したものは、「小説を書く」という行為に対する、著者自身の思いであったのでしょうから。

2010/11