りぼんの読書ノート

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迷宮の将軍(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

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スペインのくびきから中南米諸国を解き放ち、独立へと導いたシモン・ボリーバル将軍の最後の7ヶ月を南米文学の巨匠が描いた作品です。以前読んだときには、恥ずかしながらこの人物のことを知らなかったのでピンとこなかったのですが、今度は予習済み。^^

イスパノアメリカ諸国は、独立の直後から各地のカウディーリョ(地方政治の有力者)の横暴がはじまり、シモン・ボリバールが描いていた「大統合」の図式は壊れていきます。まずはベネズエラが、次いでエクアドルが「大コロンビア」から独立をはかり、シモンの政治的影響力は急速に衰えていきます。

英国への脱出を決めたシモンはカリブ海の港町にたどり着きますが、腸チフスが悪化してヨーロッパへの航海を断念。失意の中で47歳の生涯を終えるのですが、本書のタイトルは臨終の際にシモンが叫んだという「いったいどうすればこの迷宮から抜け出せるんだ」との言葉からつけられているんですね。

しかし、謎は多いのです。2カ国の分離独立は強行されたものの、ペルーやボリビアではまだウルダネータ将軍らのシモンの後継者が大統領職についており、彼の理想を奉じる将軍たちも数多くいたのです。死病に冒されていたとはいえ、イスパノアメリカ統合の理想に燃えていた英雄がどうして全てを投げ出して、自滅するかのように失意の迷宮に踏み入ってしまったのでしょうか。

シモンが後継者と目していた若いスクレ将軍が暗殺されたことは理由のひとつでしょうが、真の理由は、彼は既に自分の理想の実現を諦めてしまっていたことなのかもしれません。自分をドン・キホーテに例え、スペインに勝利した後も終わらない地域主義と内戦を思って「イスパノアメリカには独裁か無政府状態しかないのではないだろうか」とつぶやき、「革命の種子を播こうとすると大海を耕す破目になる」と徒労感を口にするのですから。

死を目前にしたシモンは、マグダレーナ川を下っていきます。著者が愛してコレラの時代の愛予告された殺人の記録の舞台とした大河です。著者が本書を書いたのは、希望も絶望も全てを呑み込んでしまうようなマグダレーナ川を描きたかったからではないか・・とも思えてきます。

2010/11再読