りぼんの読書ノート

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小太郎の左腕(和田竜)

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1556年というと桶狭間の戦いの4年前であり、まだ戦国時代の中期。各地で小規模の国人が、大名の座を目指して地域の覇権を競っていたころの物語。勢力を拡大していた戸沢家は、領地を接するに至った隣国の児玉家に攻め込まれて篭城に追い込まれてしまいます。皆の信望を集めていた勇猛な武人・半右衛門は、起死回生の策として、かつて城下の鉄砲競争で天才的な手腕を見せた小太郎少年を連れ出して協力を求めようとします。

鉄砲で有名な雑賀の出身である小太郎は、戦に嫌気がさした爺に連れられてこの地に隠れ住んでいたのですが、爺からは鉄砲を禁じられ、単なる頭の足りない少年にしか見えません。半右衛門は児玉家の仕業に見せかけて爺を殺害し、小太郎の復讐心をあおるのですが・・。

典型的な初期戦国武将を戯画化したような半右衛門がいいですね。1人の女性を彼女が死んだ後も愛し続け、自身を厳しく律しながらも功名は追い求め、感激しやすく、敵であっても優れた武人のことは尊敬して互いに友誼を交わすという、いわば「戦国の美学」に殉じたようなキャラなんです。そんな半右衛門がやむをえず少年についた「嘘」が、最後まで彼を苦しめます。そして、最後の対決が・・。

のぼうの城の和田さんが、第3作めにして架空のキャラのみで作り上げた作品です。小太郎少年の射撃の神技は、まるで『極大射程』のボブ・リー・スワガーのようですし、もちろん伊賀忍びも登場します。いかにも和田さんの作品らしく楽しく読める作品ですが、「軽い」のは仕方ありませんね。読者層を広く設定しているのでしょうから。

2010/11