りぼんの読書ノート

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西巷説百物語(京極夏彦)

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「百物語シリーズ」5作めは、『前巷説百物語』で御行の又市とともに損料屋「ゑんま屋」の裏家業を手伝っていた靄船の林蔵を主役に据えて、江戸とは一味違う大阪での「仕掛け」を描く新趣向となっています。

著者は「又市が地方出身者なので京阪の都市文化に合わない」と考えて、林蔵を主役にしたとのこと。はじめは好人物に見える商人や成功者が一皮むけば欲や恨みに憑かれた狂気を秘めているという内容は、武士は形式を重んじ、悪党は虚勢を張る江戸の文化とは確かに異なっています。林蔵が最後につぶやく「これで終いの金比羅さんやで」はもちろんのこと、人の本性を引きずり出す際の決め台詞「ここが思案のしどころやで」は、上方にこそふさわしいですね。

「桂男」廻船問屋の一人娘と真面目な番頭が駆け落ちしたのは月に惑わされたから? 相手が悪党と知りつつ、あこぎな商売相手と娘の縁談を進めた裕福な商人の本性は?

「遺言幽霊 水乞幽霊」両替商の次男坊が狂ったのは、兄に死水をあげなかったから? 心を入れ替えて父と和解した記憶を失っていた勘当息子が犯していた罪は?

「鍛冶が婆」自害した土佐の刀匠が大量殺人を犯していたのは、狼の血筋だったから? 妻を思う気持ちも度が過ぎてはいけません。

「夜楽屋」浄瑠璃名人が引退したのは、夜の楽屋で争う人形を見てしまったため? 8年前に先代名人が急死したのも、人形争いに巻き込まれたため?

「溝出」村の大立者と庄屋の息子が殺しあったのは、弔われぬ骸に踊らされたから? そもそも、かつて村を滅ぼしかけた疫病の正体は何だったのでしょう。

「豆狸」酒造の跡取りで5年前に川に流された幼児は豆狸に育てられていた? このシリーズには珍しく悪党の登場しない、しんみりとする「仕掛け」です。

「野狐」16年前に殺された妹の敵討ちを依頼する女が見たのは狐火? 16年前、若い林蔵が仕掛けにしくじり恋人を亡くしたのは密告のせいでした。又市や山岡百介の登場は、嬉しい演出です。

林蔵の相棒で、7作全てにフル出演する横川のお竜がいいですね。京人形のような上品な顔立ちなのに、幽霊をはじめどんな女にも化けてしまう。そういえば「帷子辻」では腐乱死体を演じていました。ちょっと山猫回しのおぎんとかぶりますけど・・。

2010/11