りぼんの読書ノート

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立身いたしたく候(梶よう子)

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ある資料によると、2万3千人いた旗本・御家人のうち、10%以上が無役の寄合・小普請だったとのこと。幕末期、瀬戸物屋の五男坊に生まれた駿平は、貧乏御家人の野依家に婿養子入りしたものの、許嫁となる10歳の義妹もよから「兄様・・」と呼ばれて萌えたのは一瞬のこと。彼を待っていたのは、過酷なシューカツだったのです。

一番必要なのはコネだし、足の引っ張り合いは日常茶飯事だし、就職指南を以て任じる中年侍はタカリ同然。組頭の知遇を得るための挨拶や付け届け、鍛錬に試験勉強は当たり前。少しでも役に立つところを見せようと、役職についている者の仕事を手伝おうとすると、上様のペットの餌のミミズ探しや、パワハラ相談や、気鬱の部下への対応や、地位にしがみついて引退しない老人の世話など、およそ武士とは思えない仕事ばかり。それでもようやく、勘定役への採用試験へとたどりついたのですが・・。

小説ですので、意外な活躍の機会があったり、実家の商売のついでに長崎旅行もできたりするのですが、現実はもっと地味で厳しいものですね。そもそも150俵取りという野依家は、御家人の中では上位クラスなのです。本書の次作で直木賞候補作となった『ヨイ豊』は未読ですが、コミカルな語り口を保ちながら、シリアスなテーマに挑んで欲しいものです。

ついでながら作中に登場する「出世双六」は小普請から老中を目指すゲームだそうです。御家人の最高職は徒目付なのですが、幕末の登用基準はグチャグチャになるので、駿平にもチャンスはあったのかも? ただし幕末から明治期にかけての御家人で、ハッピーエンドとなった人は少ないはずです。

2016/8