りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

霧(ウラル)桜木紫乃

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北の町での女の生きざまを描き続けている著者が、またひとり、ニューヒロインを誕生させました。

昭和35年。根室の有力企業であった河之辺水産の三姉妹は、それぞれ異なる道を歩もうとしていました。いつも百点満点を目指していた長女・智鶴は、やはり地元の有力企業である大旗運輸の長男で政界入りを目指す善司と結婚。彼女は地元票を纏めるのみならず、家族や夫までも自分の駒として操ろうとしているかのようです。三女・早苗は、信金理事長の次男を婿に迎えて家業を継ぐ政略結婚に反発しながらも、運命に抗いきれないものを感じています。

そして本書の視点人物となる次女・珠生は母親を嫌って花街の芸者となり、国後出身で「海峡の汚れ仕事」を担う相羽重之と恋に落ちて結婚。「姐さん」と呼ばれる立場にふさわしい器量と覚悟を身にまとっていきます。やがて、相場が掻き集めた裏金の力をもって大旗が国政選挙に当選を果たした夜、事件が起きるのですが・・。

一方で、本書の主役は「戦後の根室」という町であるともいえます。あらためて巻頭の地図を見ると、根室は日本の最東端というより、北方領土を含めた道東の中心地にあたるのですね。難民として海峡を渡ってきた島民たちを抱える町は、霧が晴れるたびに目の前に現れる国境を見据えながら、生きていかなければならないのです。本書は、珠生が「海峡の鬼になる」決意をするところで終わりますが、ぜひ続編で「三姉妹のその後」を読みたいものです。

2016/8