りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

木暮荘物語(三浦しをん)

イメージ 1

小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年、2階建て全6室のおんぼろアパート木暮荘を舞台にして繰り広げられる人間悲喜劇。というと、よくある現代人情モノと思われるでしょうし、事実そうなのですが、三浦さんの作品なのでヒネリが利いています。とにかく全体を繋ぐテーマは「SEX」なのですから。

「シンプリーヘブン」
花屋で働く繭の部屋に突然現れたのは、海外に写真を撮りにいったまま3年間音信不通だった元カレの並木。繭が半年前に付き合い始めた現カレの伊藤が裸で部屋にいるにもかかわらず、泊めて欲しいというのです。なぜか伊藤も嫌ではないようで並木は居座ってしまうのですが、そんな関係が続くはずもありませんよね。未知の世界を経験してしまうのではないかという繭のドキドキ感は無駄になりましたが・・。

「心身」
娘夫婦がやってきたため、小暮荘の一部屋で一人暮らしを始めた大家の小暮は70歳。一番の親友が亡くなる前に話していた「セックス」の言葉が頭から離れません。老人相手のデリヘルを頼むのですが・・。奥さんというものは、悪いタイミングで現れるものなのです。

「柱の実り」
小暮荘関係者としては、小暮爺さんの飼い犬だけが絡む話です。ペットトリマーの美禰は、駅のホームの片隅に生えたキノコが男性のナニに見えてしまうのですが、誰も気にしない様子。それに唯一気づいたヤクザ風の男・前田は、美禰の店に飼い犬を連れてくるようになるのですが・・。「気づかないふりをしてしまった過去」という、結構重いテーマの話でした。

「黒い飲み物」
繭が働く花屋の佐伯さんが、夫が淹れるコーヒーが泥の味に思えることをきっかけに、喫茶店のマスターをしている夫の浮気を疑う話。かつて熱病のように、夫とセックスをしまくった時期もあったのに・・。いざ浮気の現場に乗り込んでしまうと、お互いに困るものでしょうね。

「穴」
隣人たちの立てる音に悩まされている神崎は、階下の女子大生・光子の性生活を覗き見するようになってしまいます。これは、100%変態だし、犯罪ですね。しかしその行為は、光子にバレていたのです。でも、2人の関係が親密になることは、ありえませんね。

「ピース」
子供ができない体質の光子がヤリまくる生活をおくっているのは、その反動なのでしょうか。しかし、妊娠した友人が産み落としたばかりの赤ちゃんを預かると、その子に愛情を感じてしまうのでした。友人の「でき婚」がようやく認知され、赤ちゃんを引き取りに来た時には、複雑な感情が湧くのです。

「嘘の味」
繭をあきらめきれずに花屋の近くをウロウロしていたい並木は、ニジコと名乗る女性から、突然同居を持ちかけられます。嘘の味を見抜くというニジコは、高等遊民のような暮らしをしているのですが、男女関係には興味がない様子。彼女は何を求めていたのでしょう。

どの話をとっても「一言では説明できない関係」ですね。人間関係の希薄な都会で、昭和の香りが残るボロアパートという舞台設定があって、はじめて成立する関係なのでしょう。それでも逆に「類型的な普通の関係」のほうが問われているような気がしてきます。

2016/8