りぼんの読書ノート

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輝山(澤田瞳子)

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『星落ちて、なお』で2021年7月に直木賞を受賞された著者の受賞後第1作は、江戸期の石見銀山を舞台とする群像小説でした。江戸初期には世界の銀の1/3を産出したという石見銀山は厳しい統制の下にあった幕府直轄地ですが、そんな場所でも普通の人々の暮らしは営まれていたのです。

 

江戸からやって来た代官所中元の金吾が語る鉱山町の世界は独特で濃密です。落盤や出水の危険に加えて、鉱山病である塵肺によって40歳まで生きることも難しいという堀子たちの気性が反映されるのでしょう。悪辣な山師の企み、痢病の流行、他所から流れついた人々や鉱山から出ていった人々が断ち切れない因縁、そして無宿人の受け入れ。代官所と鉱山町の人々を巡るひとつひとつのエピソードが金吾を成長させていきます。実は彼は、以前の上司から代官の身辺を探るよう密命を帯びていたのですが、いつしか鉱山町の人々を思い遣る代官に心酔するようになっていました。しかし7年後、金吾の元上司が直接石見を訪れた時に事件が起こります

 

とらえどころがない性格ながら要所を抑えている代官、有能な代官所元締手代、鬱屈を抱える地役人、皆から慕われる堀子頭、さまざまな出自の堀子たちや雑用係たち、想い人を待つ女中、酒飲みの住職、思惑を抱いた豪商など、さまざまな人物を描き分けながら、当時の銀山の雰囲気を再現した著者の力量は確かなものです。大阪にいたときに石見銀山に行く機会もあったのですが、実現できなかったことが悔やまれます。

 

2022/3