りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田そのこ)

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『52ヘルツのクジラたち』で2021年の本屋大賞を受賞した著者のデビュー作です。2016年に「女による女のためのR-18大賞」を受賞した短編から始まる連作短編集。ネグレクト、虐待、DV、貧困という激流の中を必死に泳ぐ5匹の魚に例えた各章のタイトルは、中島みゆきさんの「ファイト!」の歌詞「暗い水の流れに打たれながら 魚たちのぼっていく」を連想させてくれます。

 

カメルーンの青い魚」

母親から育児放棄されて祖母に育てられたサキコが好きになったのは、児童養護施設で育った孤児のりゅうちゃんでした。しかし町を出た彼は、たった一度戻ってきただけでまた行方をくらましてしまいます。そしてサキコもまたシングルマザーになりました。

 

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」

サキコの息子の啓太は中学生になっていました。彼が新聞配達のバイトを始めたのは、叶う当てもないサキコの望みを助けるためだったのでしょうか。彼が気にしていたのは、不幸な生い立ちで気が弱い春子だったのですが、彼女は自分の力で立ち上がれそうです。いかし晴子は、無責任な父親のせいで転校を余儀なくされてしまいます。

 

「波間に浮かぶイエロー」

サキコが啓太を育てる際に世話になった喫茶店の物語。女性になりつつあるオンコのマスター芙美のもとに飛び込んできたのは、かつて会社員の男性だった頃の芙美が惚れていた女性・環でした。かつて不倫の末に会社を辞めた環は、今度は夫に不倫されて家を飛び出してきたのです。語り手の沙世も含めて、皆に幸せになって欲しいですね。芙美の秘密にも驚かされましたが。

 

「溺れるスイミー

幼い頃に家を出て行った父親と同じ性分である唯子は、職場の上司からのプロポーズに悩みます。そんな時に出逢ったトラック運転手の元ヤンキー宇崎が、自分と同じ性分と知って心惹かれますが、彼女は水槽の中の群れから離れる決心ができるのでしょうか。第1話のりゅうちゃんの喧嘩相手が宇崎でした。

 

「海になる」

3度の流産と夫のDVでボロボロになった桜子は、自殺や夫の殺害を考えるほどに追い詰められていました。結局彼女は離婚して助産婦となり、「うみのいりぐち」という産院を開いて半生をすごしたのです。70歳を超えた桜子が引き取ることになった妹の孫が、第2話の晴子でした。ここなら安心ですが、桜子の老いを心配してしまうのは杞憂でしょうか。

 

2022/3