りぼんの読書ノート

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対岸の家事(朱野帰子)

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『海に降る』や『わたし、定時で帰ります。』がTVドラマ化された著者が、主婦労働というテーマに切り込んでくれました。

 

家族の為に「家事をすること」を仕事に選んだ詩穂が主人公。居酒屋に勤める夫の帰りはいつも遅く、2歳児の娘と2人だけで繰り返される日々の中で、自分の選択が正しかったのかどうか迷っています。そんな中、自動支援センター主催の親子教室で出会ったキャリアウーマンの母親から、「専業主婦はもはや絶滅危惧種」と聞かされて動揺してしまいます。

 

しかし物語は上手に回り始めます。かつて自信満々だったワーキングマザーも、時代の最先端の旗手として育休取得したエリート公務員のイクダンも、近所の人々に慕われている医師の若奥様も、専業主婦の先輩として仕事に邁進する娘を支援している一人暮らしの老母も、誰もが悩んでいるのです。そしてはじめは愚直にしか思えなかった詩穂の生き方を、誰もが認め始めた時に事件が起こりかけます。そして詩穂自身にも、まだ乗り越えられていない過去があったのです。

 

物語のテーマは現代的ですし、主人公や周囲の人々の造形も、彼らの悩みが物語性を帯びていく展開もよくできている作品です。唯一の難点は、少々「TVドラマ的」に過ぎるように思えてしまうことなのですが・・。

 

2022/3