りぼんの読書ノート

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総理の夫(原田マハ)

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閉塞感漂う日本の中で、最も空気が淀んでいるのが政界でしょうか。そこに新風を吹き込もうと試みる小説も多い中で、本書が持ち出してきたのが「女性総理」。同じテーマの『標的(真山仁)』は現実的なドロドロ感を引きずっていますが、こちらはかなりエンタメ寄りで「抜け感」があります。

 

近未来の日本で、内閣総理大臣に指名されたのは42歳の相馬凛子。政策シンクタンクの研究員を務めた後に政治家に転身。弱小野党の党首にすぎなかったのに、百戦錬磨の黒幕的政治家が仕掛けた政治ゲームによって連立内閣の総理に任命されることになったのです。彼女の凛とした政治姿勢や政治変革への意思は、たちまちのうちに国民の人気を掴んでしまったのですが、彼女の足元を掬おうとする陰謀が進められていたのです。

 

本書の語り手は凛子の夫でファースト・ジェントルマンとなった相馬日和。大財閥の次男として生まれたものの無欲な鳥類学者として地味な暮らしをしています。妻からいきなり「私が総理大臣になったら、何かあなたに不都合はある?」と切り出された時には驚きましたが、愛する妻を支え続けることを決意。しかし女性総理の弱点とみなされた日和にも陰謀の手が伸びてくるのでした。

 

女性総理が誕生する経緯も、彼女が打ち出した政策も、国民の熱狂も、夫婦愛による陰謀打倒も、全部が現実離れしていますが、このくらいしないと奇跡は起こりませんね。それらは全て読後感を爽やかにするためにも必要な要素でもあるのです。度を過ぎた熱狂がファシズムの温床となりやすいことなどひとまず忘れて、本書の世界を楽しんでも良いのでしょう。なお映画の宣伝をTVで見ただけなのに、女性総理と総理の夫のイメージは中谷美紀田中圭でしかありません。映像の影響力や恐るべし。

 

2022/3