りぼんの読書ノート

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大統領の遺産(ライオネル・デヴィッドスン)

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タイトルにある「大統領」とは、イスラエル初代大統領ハイム・ワイツマンのこと。政治家であったと同時に著名な化学者だったワイツマンの書簡編纂に携わる現代史家イゴーが、書簡に隠されていた秘密を解き明かしていく物語。

その秘密とは、サツマイモから生成できる石油代替エネルギー。とうもろこしからエタノールができる現代ではそれほど驚きませんが、ワイツマンの晩年は1950年代で、本書が書かれたのは1970年代。イスラエルの仇敵であるアラブ諸国オイルマネーで潤い始めた時代のことですから、政治的・経済的な意味は大きいのです。そしてワイツマンの秘密を追うイゴーにも、国際的陰謀の影が・・。

陰謀や謀略の部分はそれほどでもありませんが、謎解きの過程が楽しい小説でした。大統領の晩年、病床での口述筆記で、真剣な回顧の合間に挿入される脈絡のない言葉が重要なヒントだったんですね。「ピクルスが食べたい」とか「チャツネはいらん」とか、わけのわからない言葉の羅列には「さすがのワイツマンも最後はボケたか」と誰もが思っていたのですが・・。まさか、科学的素養のない筆記者が、化学反応や化学者の名前を誤記したものだったとは!

ワイツマンには、砂糖にバクテリアを作用させて発酵させて合成ゴムを得る研究の副産物として、デンプンからアセトンを合成するバクテリア発酵法を開発したとの実績もあったとのこと。そこから想像を膨らませた作品なんですね。

2013/5