りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

BUTTER(柚木麻子)

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梶井真奈子、通称カジマナ。交際相手から金を奪った末に3件の殺害容疑で逮捕された女・・というと、現実に起きた事件の容疑者を連想してしまいます。実際に、獄中で本書を読んだ容疑者が怒り狂ったとの噂まで聞こえてきます。

本書の主人公は30代の女性週刊誌記者である里佳。事件に対する反響に「女嫌い」の匂いを嗅ぎ取った里佳は、カジマナと面会して取材を開始するのですが、欲望と快楽に忠実な彼女の言動に翻弄されていってしまいます。このあたりは「羊たちの沈黙」での、ジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンスの関係を思わせますね。尊大で傲慢で狡猾なカジマナに圧倒され、バターたっぷりの彼女の食生活を模倣した里佳は、体形まで変わってしまうほど。

しかし本書は、それで終わる物語ではありません。母親から離婚された父親の孤独死に責任を感じていた里佳と、彼女の親友でセックスレスの夫婦関係や不妊に悩む伶子は、カジマナの呪縛にかかりやすい背景を持っていたわけですが、彼女たちはそれを自分たちの方法で断ち切っていくのです。

著者のランチのアッコちゃんシリーズも、「料理」がキーワードとなる作品ですが、本書のカジマナはアッコちゃんの「邪悪な模倣者」のように思えます。2人の決定的な違いは、「自分の適量を知る」ことにあるのではないでしょうか。料理だけでなく、人間関係も、自分の許容量も。確かに上質な「バター」は濃厚で美味なのですが・・。

2018/1