りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018/1 BUTTER(柚木麻子)

1月は、巨匠の新作からベストセラーとなった芥川賞受賞作まで、たくさんの素晴らしい本と出会えました。なかでも1位とした柚木さんの作品は、現代日本社会の窮屈さを吹き飛ばすような快作だったと思います。次点には、昨年話題となった「将棋界」のノンフィクションを2冊選びましたが、天才的な勝負師が生きる世界には『火花』が描いた「お笑い」と共通するものを感じます。


1.BUTTER(柚木麻子)
3人の交際相手を殺害した女性に獄中でインタビューした女性記者が、欲望と快楽に忠実な容疑者から過剰な影響を受けるというと、「羊たちの沈黙」を思い出してしまいます。しかし本書はそれだけで終わる物語ではありません。主人公たちは、自分の生活と人間関係を見直すことによって、かけられた呪縛を断ち切っていくのです。若い女性の禁欲を美徳とするような社会の風潮に対しても、一石を投げかけた作品になっています。

2.隣接界(クリストファー・プリースト)
近未来、激しい気象変動と荒れ狂うテロにさらされてイスラム軍事国家となっている英国で、反政府主義者の襲撃によって妻を失った主人公の「現実」が歪み始めていきます。ウェルズへのオマージュ、超絶イリュージョン、世界大戦、航空機、夢幻諸島など、過去の著作に綴られたモチーフが散りばめられた世界においても、純愛は貫き通せるのでしょうか。

3.コードネーム・ヴェリティ(エリザベス・ウェイン)
ナチス占領下のフランスでゲシュタポに囚われたイギリス人女性は、なぜ親友の女性パイロットが書き手であるような物語を供述したのでしょう。その答えは、女性パイロットの視点から描かれる第2部で明らかになって行きます。本書は、自身を待つ過酷な運命に怯えながらも人間の尊厳を必死で守ろうとした、勇敢な女性たちの物語だったのです。

4.火花(又吉直樹)
人気お笑い芸人による芥川賞受賞作として、話題になったベストセラー小説です。「お笑い」という特殊な世界を描きながらも本書は、疎外感と焦燥感を抱く若者たちの挫折という普遍的なテーマを扱った作品であり、物語の展開はスタンダードです。しかし本書が並の作品から一段抜けているのは、著者が文学と笑いに対して真摯に向き合った結果なのでしょう。

5.繊細な真実(ジョン・ル・カレ)
軍事産業から功名心を焚きつけられた大臣が計画した極秘作戦は、無残な失敗に終わっていました。国家機密の名のもとに深く隠蔽されていた惨事を暴こうとする外交官の企ては、成功するのでしょうか。80歳を超えてなお「特定秘密保護法」という新たなテーマに挑んだ巨匠の若々しさを感じる作品です。



2018/1/30