りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オブ・ザ・ベースボール(円城塔)

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科学的知識と文学系薀蓄を併せ持つ異色作家が、文學界新人賞を受賞した作品です。

ほぼ1年に1回、空から人が降って来るという「ファウルズ」は、その不思議な現象を除けば単調で退屈な町でしかありません。そこに流れ着いて、ユニフォームとバットを見に着けた「レスキューチーム」の一員となった男が、延々と語り続けます。

そもそもどうして人が降って来るのか。彼らは何者なのか。なぜレスキューチームは9人で、バットを持っているのか。落下者をバットで打ち返すことがレスキュー行為と言えるのか。もちろん、ところどころに挿入される疑似科学的な推論は空論でしかありません。サリンジャーキャッチャー・イン・ザ・ライを意識した作品であり、ライ麦畑の崖っぷちから落ちそうになったときに捕まえてもらえなかった人たちが、落ちて来るということなのかもしれません。

併録されているつぎの著者につづくは、批評家にR氏なる人物の著作との類似性を指摘された著者が、実在すら疑われているR氏なる作家を追い求め、書物の迷宮に入り込んでいくメタ小説です。後のプロローグを予感させる作品です。

2018/1