りぼんの読書ノート

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彼女たちの部屋(レティシア・コロンバニ)

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パリ11区に女性会館(Palais de la Femme)という救世軍の施設があります。300ほどの居室を有し、困窮して住む場所を持たない単身女性や母子を国籍を問わずに受け入れている、20世紀初頭に建設された歴史的建築は、どのようにして今の姿になったのでしょう。本書は、現代のパリでボランティア活動を行う女性ソレーヌが、1920年代のパリでこの施設を作るために戦った救世軍の女性ブランシェを再発見する物語です。

 

クライアントの自殺という大きな挫折によって燃え尽きた40歳の弁護士ソレーヌは、社会復帰のためにボランティア活動を始めます。しかし彼女が紹介された女性会館での代書人という活動は、彼女の想像をはるかに超えていました。自分とはまるで異なる境遇にいる居住者たちから警戒され、無視されながら、ひとりひとりと話し続け、彼女たちの人生に寄り添っていくソレーヌ。親に捨てられた元麻薬依存者のトラブルメーカー、アフリカから亡命してきた母子、夫のDVから逃れてきた婦人、長年路上生活を続けてきた老女・・。しかしようやくここで自分の役割を見つけたと思った矢先に、事件が起こるのです。再度受けた大きな打撃から、彼女はどのように立ち直っていくのでしょう。

 

ソレーヌの物語の幕間に、創立されたばかりの救世軍に入隊し、生涯をかけて街中の貧困に終わりのない戦いを挑んでいたブランシュの、100年前の物語が挿入されていきます。年老いて病を得ながらも、彼女は新たな天啓を得るのです。それは巨大な空き物件を買い取って、困窮する女性たちを住まわせること。もちろん巨額の費用がかかる一方で、手元資金などありません。しかし彼女は良き理解者で同志である夫アルバンとともに、精力的に寄付を募り続けるのです。そして山は動き、奇跡が起こります。

 

本書で描かれた女性たちの悲惨な境遇は、現代の日本でも他人事ではありません。多くのシングルマザー世帯が貧困層に属し、夫や親からのDVに苦しむ女性が後を絶たない中で、民間団体が運営する女性保護シェルターは、行政が把握しているだけで122か所あるとのこと。そこでは多くのソレーヌやブランシュが戦い続けているのでしょう。そんな中で自分にできることは何なのかと、鋭く問いかけてくる作品です。

 

2021/2