りぼんの読書ノート

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限界分譲地(吉川祐介)

著者の「限界ニュータウン探訪記」をYouTubeで見ていたら、本になったというのでさっそく読んでみました。千葉県北東部の限界分譲地に居を構えてしまったことを契機として調査を始めた著者は、この問題に関する情報や資料が圧倒的に少ないと語っています。乱開発の末に放置されてしまった分譲地には商品的価値もなく、所有者の大半が遠方在住者であることが理由のようです。情報不足が流動性を損ない、何の対策も打てないままいっそう価値を減じている状態を改善する道はあるのでしょうか。

 

興味深いのは、限界分譲地の大半が高度経済成長期の1960年代から1970年代にかけて開発されたという事実です。漠然とバブル期の負の遺産と思い込んでいましたが、田中角栄の「日本列島改造論」時代のものだったのですね。地価も安く規制も緩い都市計画区域外エリアが、投機目的で開発されたもののようです。バブル期に新築家屋も建てられた物件もあるものの、利便性に欠け、インフラも未整備なままでは、ほんの一部しか利用されずに現在に至っているとのこと。そして「負動産」として相続された結果、所有者でさえ当事者意識を失っているようです。別荘地物件のケースも、より悪質な原野商法も、ルーツは一緒ですね。

 

この問題の解決は容易ではありません。成田空港周辺で外国人労働者の居住地として活用されているケースや、地方のリゾートマンションをコンパクトシティ構想のの受け皿として活用する案もあるとのことですが、大半が所有者も不明なまま放置されているだけであることは、容易に想像できます。ともあれ、まずは情報発信から始めるべきとする著者の姿勢には多いに共感できます。

 

2024/6