りぼんの読書ノート

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優しいオオカミの雪原(ステフ・ペニー)

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19世紀半ばのカナダ。スコットランド移民たちが新天地を求めて移り住んだ入植地。罠猟師が殺され、ひとりの青年が行方不明になった現場に残された足跡は、オオカミの棲む森と極寒のツンドラしか存在しない奥地をめざしていました。

行方不明となった青年・フランシスが、犯人なのでしょうか。息子の容疑を晴らすために、母のロス夫人は危険な捜索の旅に出るのですが、そこで見えてきたのは、インディアンから毛皮を収奪している「会社」の存在が生み出している、北の大地のさまざまな矛盾でした。

厳しい自然の中で、同郷のもの同士が支えあって生きるコミュニティーなのに、イギリスやフランスや独立して間もないアメリカの間の矛盾や、インディアンと白人の間の矛盾とも無関係ではいられず、疑惑や、愛情や、友情や、差別や、希望が錯綜する世界。

登場人物たちのエピソードが丁寧に描かれて、厚みのある物語となっています。中でも一番の読みどころは「雪原の旅」の場面でしょう。吹雪の雪原の厳しさと、そこに凛々しく生きるオオカミたちと遭遇する場面には、息を飲みました。「厳しい自然にさらされる人間の本性」というテーマは、同じカナダが舞台のアリステア・マクラウドさんの珠玉の短編集にも通じるようですね。

ラストで哀しい真実が明らかにされますが、たくましい母親であるだけでなく、人間としても熱い情熱と力強さを持っているロス夫人なら、耐えられるはず。大河ドラマの風格を持った作品でした。

2008/4