りぼんの読書ノート

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草原讃歌(ナンシー・ヒューストン)

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祖父パドンが遺した草稿の断片から、祖父の人生を紡ぎあげようとする孫娘のポーラ。解体されて順不同に綴られる物語群から浮かび上がってきたのは、パドンがカナダ社会に抱いていた怒りだったようです。もちろんそれは、著者自身が感じている怒りと同様のものなのでしょう。

ゴールドラッシュの一攫千金を夢見てイギリスから移住してきた父親と、敬虔なプロテスタントの母の間で、1900年に生を得たカナダ移民2世のパドンは、厳格な教育を受けて育ち、高校教師の職を得ます。スウェーデン系移民のカレンと結婚もしますが、彼の思いは満たされません。休職して文筆活動を志したものの、何も生み出すことはできませんでした。

思うように運ばなかった人生で,ただひとつパドンの命を輝かせたものは、中年を過ぎてから出会ったアメリカ・インディアンの画家・ミランダとの恋でした。彼女から教わった、インディアンたちが歴史を眺める視点こそが、パドンにとって唯一、意味のあることだったのでしょう。思うに、パドンの執筆が不成功に終わった根本的な原因は、「英系カナダ文化の無価値さ」そのものにあったのかもしれません。

物語が時系列順でないのは、「ポスト・モダン」というより、インディアン的な世界観によるものなのでしょう。進歩を前提とする直線的な時間ではなく、悠久を流れる円環的な時間に基づいて、書かれているようです。著者が愛国的なハイチ系難民に示している共感と理解も、本書のエピソードに織り込まれています。

2015/4