りぼんの読書ノート

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のち更に咲く(澤田瞳子)

清少納言紫式部和泉式部などの平安ヒロインたちが華々しく活躍する時代を舞台としていますが、主人公は藤原道長の私邸・土御門第に下郎女房として勤める小紅という女性です。彼女の一家も藤原一門に属しているものの、父や兄が罪を得たことで剥落しており、中宮・彰子を囲む華やかなサークルなど遥か高みの存在でしかありません。しかし、折しも彰子が懐妊して道長の栄華の月が満ちようとする中で、小紅は王朝の禁忌に触れる陰謀に巻き込まれてしまうことになるのです。

 

京の都を暗躍する盗賊・袴垂は、死んだはずの小紅の兄なのでしょうか。その一味に加わっている少女は、どんな運命を背負っているのでしょう。恋多き詩人として名を馳せた和泉式が道長を恨んで権力に抗っている背景にはどのような事情があるのでしょう。道長の正妻で彰子の母である倫子は、いったいどんな秘密を隠しているのでしょう。そして彰子の出産を「日記」として記録するために土御門第を訪れている紫式部は、何をどこまで見通していたのでしょうか。

 

小紅も愛読している『源氏物語』の前半のハイライトは、光君と藤壺女御の密会による不義の子の誕生です。やがて天皇の座に就く息子に仕える光君は、罪の意識に苛まれながら秘密を隠し通すしかありません。紫式部が描き出した途方もない恋物語の原点を連想させる「澤田絵巻」は、華やかな京の闇の部分にも踏み込んでくれています。

 

2024/6