りぼんの読書ノート

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マーダーズ(長浦京)

リボルバー・リリー』の著者によるバイオレンス小説ですが、本書の舞台は現代日本。法の網をすり抜けて平然と暮らしている犯罪者たちの暗闘は、必ずしも善悪の天秤で量りきれるものではありませんでした。

 

かつて小学校時代の初恋相手を暴行したあげく殺害した犯人たちを、8年の歳月をかけて殺していった過去を持つ商社マンの阿久津清春。命の危険すらある悲惨なDVから逃れるために、母の内縁の夫たちを殺害した過去を持つ警視庁勤務の岡本敦子警部補。法の網をすり抜けた元殺人者の2人は、柚木玲美という若い女性から脅されます。罪の証拠を公表されたくなければ、自殺とされた彼女の母の死の真相と消息不明の姉の安否を調べて欲しいと。実は玲美の背後には、殺人犯の逮捕に異常な執念を持つが故に退職させられ、今は死の床に就いている元刑事の村木がいたのです。。

 

かくして元殺人犯のコンビが探偵役を務めるという不思議な設定の物語が始まります。そして2人は、当時は無関係とされた過去の事件の中に、思いもよらない共通項を発見。ついには独自の殺人哲学を有する謎めいた殺人集団にたどりつくのですが、はたして玲美の姉は生きているのでしょうか。そして彼らを操る村木の真意とは、いったい何だったのでしょうか。

 

作中でも登場人物のひとりが指摘していますが、苦境を脱するために暴力を用いるべきか、正義を遂行するための暴力は認められるのか、という問いは設定が間違っています。実際には暴力以外の手段も存在するのですから。その意味で村木や玲美のほうが探偵役の殺人犯たちよりも歪んでいるとも言えるのですが、そんな疑問を感じることなく展開を楽しむことが、バイオレンス小説を読む醍醐味なのでしょう。

 

2024/6