りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ガラスの麒麟(加納朋子)

1995年に日本推理作家協会賞を受賞した著者初期のミステリですが、デビュー作『ななつのこ』のように「日常の謎」をテーマとする暖かな物語ではありません。なにしろ冒頭からいきなり殺人事件が起こるのですから。殺害されたのは17歳の高校生である安藤麻衣子。とびぬけて美しくて頭もよく、彼女が綴った「ガラスの麒麟」という童話が出版されることも決まっていた麻衣子は、誰になぜ殺されなくてはならなかったのでしょうか。

 

その頃、童話の挿絵を描く予定になっていたイラストレイターの野間は、麻衣子の同級生である娘の直子の様子がおかしいことに気付きます。直子はまるで麻衣子に憑依されたかのように殺人事件の詳細を知っていたのです。野間は2人のことに詳しい養護教諭の神野菜生子に相談するのですが・・。

 

女子高でカウンセリング役も務めている神野先生を探偵役とする連作短編は、ガラス細工のように脆い思春期の女性たちが抱える悩みを軸にして進んでいきます。老婦人に暴行を働いた者はクラスメイトの中にいるのでしょうか。次々に猫たちに刃物で傷を負わせる者はどのような手口を用いているのでしょうか。殺害された安藤麻衣子の幽霊が出るという噂の真相は何だったのでしょう。安藤麻衣子の名前を騙ってかつて問題を起こした卒業生の女性を非難する手紙を書いたのは誰なのでしょう。

 

そして最終話で、次々に起こる問題に対して鮮やかな推理を働かせていた神野先生も、一連の事件の当事者であることが明らかになります。彼女もまた苦悩する「ガラスの動物」であったわけです。ジグソーパズルのラストピースが嵌まるような鮮やかな構成ですが、物語はまだ余韻を残しています。「ガラスの動物たち」に血を通わせるものは何なのか。その問いに答えるのは、読者自身なのでしょう。

 

2023/2