りぼんの読書ノート

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九十九藤(西條奈加)

タイトルは「つづらふじ」と読ませます。主人公のお藤がたどり来た、曲がりくねったつづら道をあらわしているのでしょう。縁あって江戸の人材派遣業である口入屋の女主人となったお藤には、壮絶な過去がありました。四日市の旅籠の娘として生まれながら、実父の死後に義母によって女衒に売り飛ばされた道中に脱走。恩人たちと巡り合えたおかげで江戸に転がり込み、大店の奉公人となって13年。ダメ男との離縁もあったものの、ここまでたどり着いたところ。

 

当時、江戸での口入屋は武家相手の商売でした。仲介する奉公人の大半は中間と呼ばれる武家の下男で、乱暴で素行が悪く、身持ちの悪い者たちを取り扱う荒々しいビジネス。しかも武家の金詰りで先細りしている市場は大手の組合に牛耳られているため。新規参入など不可能な状態。しかしお藤には、店を立て直すための秘策がありました。商家を相手にして下男や下働きの男衆を売り込むというのです。当時、江戸の大店の大半は西国に本店があり、表の奉公人は生国出身者で固められていたんですね。女不足の江戸では、裏の仕事に男の需要があると踏んだのですが、お藤の前に立ちふさがったのはかつての恩人でした。

 

よくできた物語です。現代の経営理論を江戸時代に持ち込んでみる作品は数多くありますが、無理なく受け入れられるものは少ないのです。江戸時代の社会制度とも矛盾なく、人情ものとしても成立しています。主人公の周辺が「いい人すぎる」感はあるのですが、それも成功物語の条件でしょうから。ファンタジーから時代小説家に路線を変えて直木賞まで受賞した著者の作品に、ハズレはありません。

 

2023/2