りぼんの読書ノート

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安吾捕物帖1(坂口安吾)

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明治20年頃、まだまだ雑然としている文明開化の時代を背景とするさまざまな事件に、隠居然とした勝海舟と、洋行帰りの名探偵新十郎と、剣術使いで推理マニアの虎之介が推理合戦を行なう短編集です。

前書きにもあるように、物語のパターンは概ね次のように決まっています。
(1)事件に出会った虎之介が自分の推理を持って、海舟の屋敷に出向く。
(2)虎之介が海舟に事件のあらましを説明する。
(3)即興で海舟が名推理を披露する。
(4)現場に立ち会っている新十郎が海舟の推理とは別の解決をする。
(5)海舟が負け惜しみを言う。

もちろん面白いのは、安楽椅子探偵役の勝海舟が言う「負け惜しみ」です。「俺は人間心理のもっと深いところを読んだ」とか、「あらまし当っていた」とか、あげくの果ては「虎之介の説明が悪い」と説教までしてしまうんですから(笑)。

ただし、あらためて読み直してみるとひとつひとつの作品は、あまり面白くありません。「トリック」で勝負しているのではないことは著者も認めているのですが、肝心の物語が雑なように思えてしまうのです。山田風太郎さんの『明治小説』のように、実在の人物や実際に起きた事件を取り込んでいれば、もっと楽しめたのではないでしょうか。本書が書かれた「戦後」という時代にはマッチしていたのかもしれませんけどね。11の短編が収められています。

舞踏会殺人事件:某国の援助で事業を起こす政商を、仮装舞踏会の会場で殺害したのは?

密室大犯罪:かんぬきのかかった土蔵で商人を殺したのは、不実の妻か、追い出された番頭か?

魔教の怪:新興宗教にかかわる者たちが、次々と奇怪な殺され方をするのですが・・

ああ無情:車引きが請け出した行李の中は女の死体。芝居一座のアメリカ公演での悲劇が関係?

万引一家:らい病と万引の業病に悩む一族というのは、もっと大きな秘密を隠す隠れ蓑?

血を見る真珠:真珠を密漁した船の中で、船長は殺害され、巨大真珠は行方不明に・・。

石の下:隠し黄金の噂がある当主が死の寸前に指さしたのは、指しかけの碁の手筋でした。

時計館の秘密:輸送業で成功した元旗本のもとに押しかけた悪妻たちを殺害したのは?

覆面屋敷:そもそも生まれなかった後継ぎを殺害? では死体は誰のものなのでしょう。

冷笑鬼:親類縁者が相争うように遺産分けを仕組んだ男ですが、それが一番狙われる立場?

稲妻は見たり:雷を恐れて閉じこもっていると、肝心な出来事を見過ごしてしまいます。

2011/5 たぶん再読

(注)写真は角川文庫版ですが、読んだのはちくま文庫版「坂口安吾全集12」です。