りぼんの読書ノート

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安吾捕物帖2(坂口安吾)

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洋行帰りの名探偵・結城新十郎と、安楽椅子探偵役の勝海舟が推理合戦を行なうシリーズの後半は、ますます「和製ホームズ」の趣を強めていくようです。本書の舞台となっている「明治20年前後」というと西暦では1890年ころ。ホームズが活躍したとされる時期とほとんど同じ頃なんですね。

幕末から明治にかけての前時代的な雰囲気も漂う雑然とした世相の中、華族や政治家や成金や宗教家がうごめき合って起こす種種雑多で怪奇な犯罪や事件を、「推理力」で解決する名探偵。こう整理してみると、ホームズの短編は「捕物帖」に似ているように思えてきます(笑)。

でも、本書があまり成功しなかったのは、事件の背景に力を入れた反面で、「トリック」や「謎解き」部分が弱かったからのように思えます。そうでなければ勝海舟をもっと前面に出して、たっぷりと「負け惜しみ」を言わせたほうが楽しめましたね。勝の出番がだんだん減ってきてしまったのは残念!


愚妖:対立する妓楼主のひとりは鉄道自殺。ひとりは牛の角で死亡。真犯人は愚かな男?

幻の塔:剣術師範の真の姿は義侠心に富んだ大陸馬賊。彼が軍資金の黄金を隠した場所は?

ロッテナム美人術:後継ぎのいない元大名家の当主を狂気に追い込むための大仕掛けとは?

赤罠:生前に葬式をした旦那の、空のはずの棺桶から遺骨が・・。

家族は六人・目一ツ半:ほとんど盲人の按摩家族の目の前で起こった犯罪とは?

狼大明神:黄金を奪った2人組が仲間割れ。復讐は子どもの世代に引き継がれて・・。

踊る時計:吝嗇な男が殺害された病室では、オルゴールが鳴っていたのですが・・。

乞食男爵:公爵夫人を強迫するなんて危険なこと。でも人間関係が難しすぎる!

トンビ男:死体がバラバラで発見されたのは被害者に左手がないことを隠すため?

あたかもホームズの短編のように、さまざまなエピソードに彩られたさまざまな事件が並ぶのですが、「聖典」と比較してしまうとどうしても「亜流」の感じがぬぐえません。ミステリ部分がイマイチなせいでしょうか。それとも、主人公に魅力がないから?やっぱり勝海舟をもっと押し出すべきだったと思います。

2011/5 たぶん再読

(注)写真は学陽書房刊『勝海舟捕物帖』ですが、読んだのはちくま文庫版「坂口安吾全集13」です。