りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

おまえさん(宮部みゆき)

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ぼんくら日暮らしに続く、本所深川のぼんくら同心の井筒平四郎と、甥の天才少年・弓之助を主人公にしたシリーズ第3作です。

辻斬りにあったような身元不明の男と、評判の薬屋・瓶屋の主人が斬殺された事件の繋がりは、20年前に起きた事件にありました。両者に通じる因縁を見つけ出した平四郎たちでしたが、事件の真実は意外な所にあったのです。犠牲者は「遺恨」で殺害されたのか、それとも・・。

例によって絡まった人間関係を解きほぐす弓之助の名推理が冴え渡るのですが、本書では前2作と比較して、さまざまな登場人物たちの人物像を描き出す方に重点が置かれているように思えます。

天才的な頭脳が暴いてしまう人の心の闇が、少年の身体と精神に治まりきらずに怯えてしまう弓之助と、ちゃらんぽらんな性格ながら人に好かれる兄の淳三郎の関係は、うまくバランスがとれています。岡っ引き政五郎の息子のような、記憶力抜群の「おでこ」こと三太郎の過去も明らかになりますが、逞しく生き抜いている母親おきえが息子を棄てた事情は哀しいものでした。

また、真面目ながら醜男であることにコンプレックスを持っている、平四郎の若い同僚の間島信之輔は、犯人を助けた女性に恋心を抱いてしまい苦しみます。彼の大叔父で老齢ながら博学で闊達な源右衛門爺さんも、厚みを感じさせます。

亡妻を偲び続ける十徳長屋の丸介は愛すべきキャラですし、一見男に頼って生きているかのような瓶屋の後妻の佐多枝が、実は芯の強い女性だったなど、まさに人間いろいろ。

それらが全部「ぼんくら」平四郎と、世間知に富んだお采屋のお徳との会話を中心にして、見事に描き分けられているんですね。長編と短編を組み合わせてひとつの纏まった物語にする超絶技法も、前2作に引き続いて健在です。

2012/1