りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

プロローグ(円城塔)

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登場人物である「わたし」が、書き手である「わたし」と会話しながら、小説が生まれていく「序章」を展開していく「自称・私小説」です。

「名前はまだない」と始まり「自分を記述している言語もまだわからない」と言う語り手ですが、日本近代文学の祖というよりも、AIの自己学習過程のようです。平安初期に編纂された「新撰姓氏録」から命名された登場人物が、使用言語を認識し、習得し、小説というものを定義していく過程から浮かび上がってくるものは、日本語という複雑さに堕した言語と、小説という非効率的な創作形態なのです。

「わたし」の理想の小説は、「定められた記号の集合と、その拡張方法を持つ、適度にマークアップされたテキストデータ」として定義されていきます。しかし「分散型のバージョン管理ソフトウェア」を用いて「多くの人間によって書かれる」ことが想定されているものが、小説たりえるのでしょうか。その時に、小説の創作とはプログラムの指示になってしまうのでしょうか。さらには、AIが綴る膨大な文章の読み手は、AIしかいないのかもしれません。

そしてAIが始めた創作は、人類滅亡後も続けられていくのです。膨大な文字の海から「生きているような
人間」を描き出すために・・。

2017/12