りぼんの読書ノート

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三惑星の探求(コードウェイナー・スミス)

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スキャナーに生きがいはないアルファ・ラルファ大通りに続く、人類補完機構シリーズの第3短編集です。この3冊でシリーズの作品は全て網羅されたとのこと。

最初の3編は、後に人類の指導者となる「キャッシャー・オニール」3部作。「人類補完機構」による保護が終わり、人類が冒険を取り戻した「人類の再発見」後の第二世紀のこと。キャッシャーは独裁者ウェッダーの手に落ちた惑星ミッザーを飛び出し、叔父にあたるウェッダーを倒す武器を探し求めて、宇宙を彷徨っているのです。

「宝石の惑星」
キャッシャーがたどりついたのは、宝石で溢れた豊かな惑星。なぜか1頭だけ連れてこられた馬の扱いについて尋ねられたキャッシャーは、どう答えるのでしょう。オチも含めてコミカルな作品なのですが、犬女のテレパスが探った馬の気持ちを巡る議論の中で、文明化することの意味も問われているようです。

「嵐の惑星」
次いでキャッシャーが訪れた風の惑星では、少女の殺害を依頼されます。下級民ながら惑星を実質支配しているらしい、その少女ト・ルースの殺害は何度も試みられたものの、誰も成功していないというのです。キャッシャーもまた、永い寿命と高い知能を持ち、愛そのものと自称する少女の虜になってしまうのでしょうか。「人類補完機構」が排除してきた「宗教」が、正面から取り上げられている作品です。

砂の惑星
ト・ルースから愛の魔力を授かったキャッシャーにとって、ウェッダーとの対決などもはや問題ではありませんでした。全てを達成してしまった男は、ついに彼と対をなす女性セラルタと出会います。2人はまるで新世界のアダムとイブのよう。

「三人、約束の星へ」
人類に対して恐るべき憎悪を抱いている種族をテレパスで発見したキャッシャーとセラルタによって、3人の改造人間が遠征に乗り出します。巨人、宇宙船、謎の立方体に姿を変えた3人が出会ったものは・・かなり拍子抜けです。

「太陽なき海に沈む」
著者の死後に、それまでも共作をしていた妻のジュヌヴィーヴが著した作品です。楽園のような星で企まれていた陰謀を、休養中の執政官が暴く物語。無垢なるものに対する登場人物の心情描写が、細やかに描かれています。

「ナンシー」
宇宙飛行士の凄まじい孤独への対策は、脳内に架空のパートナーを作り出すことでした。ただしこれは1回限りの最後の手段であり、その後の人生は余生となってしまうのです。

「親友たち」
「ナンシー」と似た設定の作品です。ただしこちらは準備された対策ではなく、宇宙飛行士が自ら幻覚を作り出してしまったようです。

他には「第81Q戦争」のオリジナル版、旅人を罠に賭けようとして罠にはまる火星からの流刑者をコミカルに描いた「西洋科学はすばらしい」、遥かな古代に偶然つくられたテレパス笛の遍歴物語の達磨大師の横笛」、暗号に含まれた一民間人の名前に諜報機関が振り回される「アンガーヘルム」が収録されています。

2017/12