りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アルファ・ラルファ大通り(コードウェイナー・スミス)

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人類補完機構の保護のもとで、「古代戦争」によって絶滅しかけた人類が宇宙への進出を果たした時代のエピソードは、前巻スキャナーに生きがいはないに収録されています。続巻となる本書では、下級民とされたキメラたちが市民権を勝ち取る「人類の再発見期」の物語が綴られます。

「クラウン・タウンの死婦人」
下級民たちの非暴力革命を率いた「犬娘ド・ジョーン」を手助けしたのは、チェックシステムのエラーから生まれた魔女っ娘エレイン、死後に機械化された元補完機構長官の死婦人レディ・パンク・アシャシュらでした。下敷きになっているのは「ジャンヌ・ダルク物語」です。「命より素晴らしいものを探し求め、命と引き換えにすることが、命の使命」という言葉には泣かされます。

「老いた大地の底で」
「人類の再発見」を促したのは、補完機構が実現した幸福な世界の行き詰まりでもあるのです。死を前にして禁断の地ゲビエットへと向かった古老が見出したものは、命を燃やし尽くすような狂乱の世界でした。映画「MATRIX3」のような地下世界ですが、これは求めていたものではありません。

酔いどれ船
宇宙の時空を超えるものは、想像力なのか、愛の力なのか。恋人エリザベスを追うために人間宇宙船に仕立て上げられたのは、アルチュール・ランボーだったのです。シリーズの中での位置づけが、微妙に難解な作品です。

「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」
生命延長剤ストルーンの発明によって富を築いたノーストリリアの、知的財産権防衛システムはユニークなものでした。狂ったテレパス能力を持つヒットンたちは、決してかわゆいものではありません。

「アルファ・ラルファ大通り」
人類に再び活力をもたらすため、不完全な時代であった古代の災厄の復活が計画されます。天空へと上っていく「過去へと向かう廃道」を歩むのは、互いにひとめで恋に落ちた「ポールとヴィルジニー」。もちろんフランス文学の古典から借りた人格であり、2人は自分たちの愛情すら疑うのですが・・。

「帰らぬク・メルのバラッド」
「人類再発見」の物語の中で、「犬娘ド・ジョーン」と並ぶヒロインになっているのは「猫娘ク・メル」です。指導者ロード・ジュストコーストと恋に落ちたク・メルは、星間逃走ルートと手段を手に入れて、下級民の指導者イ・テリケリに伝える役割を担うのです。元祖・猫耳娘のラブロマンスでした。

「シェイヨルという名の星」
帝国の流刑地シェイヨルが解放されたのも、「人類再発見」の副次的効果なのでしょう。ダンテの「地獄篇」さながらの悪夢的世界の描写が凄まじい作品でした。「人の命は永遠ではない」というのは慰めの言葉なのですから。

2017/4