りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スキャナーに生きがいはない(コードウェイナー・スミス)

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1950年に発表された第1短編「スキャナーに生きがいはない」に始まる人類補完機構シリーズ」と名づけられた連作短編を、可能な限り「未来史上の年代順」に並べ直した作品です。大半は第81Q戦争で既読でしたが、あらためて読んでみました。宮崎駿さんの風の谷のナウシカの世界観の基になったという、奇妙で美しく可憐な物語群です。

「夢幻世界へ」
まずは20世紀ソ連の科学者たちの物語。どうやらテレパス実験中らしいのですが、未来の一部を幻視してしまった科学者が悲劇に襲われてしまうのでした。

「第81Q戦争」
人的被害を出さないよう、戦争がスポーツ化された時代では、中国から独立したばかりのチベットだって、アメリカと戦うことが可能なのです。「Q」というのはマイナーな戦争のコードなのですけどね。人類が絶滅寸前に陥る大戦争以前の物語。

「マーク・エルフ」
第二次大戦末期のドイツから宇宙に避難させられて人口冬眠中だった娘カーロッタが、1万6千年ぶりに戻ってきた地球は、とんでもないことになっていました。人間化されたケモノたちが暮らす村々を、ドイツ人以外を皆殺しにするマシンのメンシェンイエーガーが跋扈し、真人はクスリ漬けにされて絶滅寸前だったのです。カーロッタの前では従順になってしまう、殺戮マシンのツンデレぶりがいいですね。

「昼下がりの女王」
それから200年後、死を間近にしたカーロッタによって、妹ユーリが人口冬眠から目覚めさせられます。彼女たちは三姉妹だったのですね。一旦は絶滅寸前に陥った人類を保護するための「人類補完機構」は、彼女たちと伴侶によって礎が築かれることになります。

「スキャナーに生きがいはない」
宇宙航行のために志願してサイボーグ化され、代償として生きる喜びを失ったのがスキャナー。苦痛を伴わずに宇宙空間での作業を可能とする方法を見出した科学者に対し、存在意義を失うことを怖れたスキャナーたちは、暗殺を決議するのですが・・。スキャナーのリーダーは、姉妹の誰かの子孫のようです。

「星の海に魂の帆をかけた女」
「平面航法」技術の発見前は、宇宙空間の移動は非人間的なものでした。人口冬眠が許されない船乗りにとっては、体感時間1カ月で人生の40年間を捨て去るという、浦島太郎のようなものだったのです。そんな時代に女性初の宙間船乗りとなったヘレン・アメリカとミスター・グレイのロマンス物語。

「人びとが降った日」
金星生物を攻略するために、「8千万もの人々を降下させて7千万は死んでも構わない」という無茶苦茶に非人道的な戦略をとったのは、もちろんあの国の子孫です。

「青をこころに、一、二と数えよ」
時代は下って、無人の光圧帆船が宇宙旅行に用いられる時代になっても、不慮の事態には目覚めさせられる人間が必要なのです。タイトルは、非常時要員とされた美少女を守るために講じられていた措置を、稼働させるためのキーワードです。

「大佐は無の極から帰った」
「平面航法」成立以前のテストパイロットとなった大佐には、何が起こったのでしょう。「2001年宇宙の旅」でスターチャイルドとなったボーマン船長を思い出しました。

「鼠と竜のゲーム」
「平面航法」による星間移動が成立した時代、宇宙平面に現れる人間精神に異常をきたす謎の存在は、ネズミのように素早く竜のように破壊的はイメージで知られていました。この存在を感知して船を守るピンライターにとって、頼もしいパートナーがいたのです。それは「猫ちゃん」だったのでした。^^

「燃える脳」
宇宙平面でのジャンプ先でロックシートを失った船長は、必要な情報が詰まっている唯一のものである自分の脳を差し出すのでした。もちろん船長は、後遺症を覚悟しています。

「ガスタブルの惑星より」
コメディですが、ちょっとグロい。人類を凌駕する科学を持つアヒル型宇宙人の来訪は、人類にとって大迷惑なのですが・・。これって、食人の風習が残る地域を、文明国が忌避するようなものでしょうか。

アナクロンに独り」
時間が奔流するアナクロンで遭難寸前に陥った新婚夫婦。重量オーバーのため、1人しか帰還できないというのですが・・。

「スズダル中佐の犯罪と栄光」
セイレーンをモチーフとする超危険性な宇宙種族と遭遇した大佐が、彼らから人類を守るために独断で行った行為が罪に問われてしまいます。大佐は、知性化させた猫を2百万年前の宇宙種族の星に送りこんで、彼らの発展を妨害したのです。猫ちゃんたちは、どうなってしまったのでしょう?

「黄金の船が――おお!おお!おお!」
地球への攻撃を目論む敵に対して、人類補完機構が送り出したのは、全長一億五千万キロメートルの黄金のハリボテの船。しかし真の秘密兵器は「第三級因果律干渉体」の少女だったのです。要するに「ツキを変える」超能力の持ち主のこと。

全編を通じて、「人類補完機構」があまり目立たない存在だったのが、意外でした。こういう連作短編は、きれいに整理せずに、「まだ奥に何かある」と思わせておくほうが良いかもしれません。

2017/1