りぼんの読書ノート

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時砂の王(小川一水)

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遥か未来の26世紀、謎の侵略者ETによって地球は壊滅。太陽系に散らばった人類たちも追撃されて絶滅寸前に陥った中で採られた起死回生の策は、時間を遡行してETの初動を制圧するというものでした。使命を帯びた人造知性体のメッセンジャーたちは過去へと向かいます。

しかし幾多のパラレルワールドにおいても、人類は敗北を重ねます。そして最後の頼みの綱となった舞台は、紀元248年の日本、女王卑弥呼が統べる邪馬台国だったのです。未来からの使いの王として登場したメッセンジャー・オーヴィルの助力を得て、卑弥呼は近隣諸国と連合軍を組織するのですが・・。

映画「ターミネーター」と似たような物語ですが、当然オリジナリティも意識されています。本書の敵役であるETは人類滅亡を目的とするプログラムであり、その時代の資源や技術に応じた侵略ロボットを増殖させていくもの。東日本に拠点を置いたETは、当初は脆い亜鉛製であり、彼らが花巻に到達して鉄製のボディを手に入れるまでの時間が勝負なのです。一方のメッセンジャーが助力できるのも知識だけであり、奇妙な古代戦争が始まるのですが、その描写が本書の読ませどころなのでしょう。

過去へと遡行を続けたメッセンジャーたちが、いずれかのパラレルワールドに残してきた個人的な思いや、その世界が滅びていく哀切感は、少々余計だった気もします。ところで、宇宙的侵略者であるETの正体はそれほど意外なものではありませんでした。後に書かれた天冥の標シリーズのオムニフロラのことを、既に知っていますので。

2018/2