りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

クローバーナイト(辻村深月)

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クローバーのような4人家族を守る騎士となる覚悟を決めた、35歳のイクメン・鶴峯裕が主人公。彼は小さな会計事務所で働きながら、自営業経営者の妻・志保と共に、5歳の長女と2歳の長男の子育てを分担しているのです。裕のイクメン本気度は、冒頭シーンで明らかになります。接待で保育園のお迎えを忘れてしまい、深夜に駆け付けたところで保育士から「お誕生日だったのに」と言われる・・という悪夢を見て、うなされるほどなのです。

第1章では「ママ友社会の閉塞性」をとりあげ、第2章では「保育園入園活動=ホカツ」の厳しさが描かれます。「保育園落ちた日本死ね!」というブログが火をつけたように、熾烈化するホカツは日本社会の矛盾そのものなのです。女性登用や少子化対策を唄いながら、必要なインフラが整備されていないわけですから。「ホカツのための偽装離婚」などという異常な本末転倒現象すら、現実に起きているのかもしれません。

続く第3章と第4章では保育園から視点を変えて、お受験幼稚園の存在と、有名私立幼稚園の実態が描かれます。お受験の時期に妊娠して先生から叱られる志保の学生時代の友人の話や、数百万円もかかるというセレブ層のお誕生会の話には、あきれていいのか、笑っていいのか。渦中にいる者にとっては、その世界が普通になってしまうことは、理解できるのですが。

そしてラストの第5章では、志保と実母との歪んだ関係が描かれます。家族を守るクローバーナイトとしては、愛情の名のもとに娘や孫に干渉してくる母親とも対峙しないとなりません。毅然として対応するだけではすまない微妙な問題なのですが、結局は夫婦の自立性と、親としての覚悟が問われているのでしょう。この章があって本書は、単なるイクメン物語を越えた作品になったのではないでしょうか。

2017/12