りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

太陽は動かない(吉田修一)

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横道世之介路(ルウ)の著者には似合わない、スパイアクション小説です。

主人公は、日系産業スパイ組織であるAN通信社の鷹野。AN通信社なるものは、アジア版CNNを創設しようとして挫折したNHK資金が元になっている組織のようで、その成り立ちからしていかにも胡散臭いものがあります。しかも組織員は孤児であり、胸に仕込まれた爆弾で忠誠が義務付けられているというのですから、荒唐無稽感たっぷり。

宇宙空間での太陽光発電に関わる新技術を巡って、スパイ、政治家、CIA、テロリスト、町工場の技術屋などが入り乱れ、ベトナムウイグル、中国、シンガポール、東京と、アジア各地で繰り広げられるアクションは、AYAKOなる謎の美女の活躍もあり、「アジア版007」といったところでしょうか。中国雑技団が登場するところでは「オクトパシー」を思い出しました。

欲望や性愛や暴力が燃えたぎるアジア的なドロドロ感は出ているし、冒頭のベトナムの裏町の描写などには著者の特徴も出ているのですが、やはりこの種の小説には向かない、というよりこの種の小説は書いて欲しくないと思うのです。

2017/12