りぼんの読書ノート

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あきない世傳 金と銀 1(高田郁)

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みをつくし料理帖の著者による新シリーズが始まりました。

摂津の田舎学者の父から「商は詐なり」と教えられた育った少女・幸が、聡明な兄と父の急死によって、大阪天満の呉服商「五十鈴屋」に奉公に出されます。慣れない商家で、人間扱いされない女衆として働き始めた幸ですが、番頭の治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく物語。商いは卑しいものなのか、それとも生涯を賭けて歩むべき道なのか、幸は自問することになるのですが、それはまだ先のこと。まずはきちんと仕事をして認められなければなりません。

しかし五十鈴屋の暖簾は傾きかけていたのです。元禄バブル後の享保デフレで呉服の売れ行きも冴えないことに加えて、若い主人の四代目徳兵衛がとんでもないダメ男。新町廓に通い詰め、せっかく船場から娶った良妻の菊栄からも離縁されてしまう始末。商才はあるものの気難しい次男の惣次とは衝突が絶えず、幸に好意を持ってくれた三男の智蔵は草紙作家を目指して家から追い出されてしまいます。三代目が早逝した後も店を保ってきた兄弟の祖母・富久と番頭の治兵衛が、店の将来を憂うところで第1巻は終了。そんな中で幸は、どのようにして商いの道を歩み始めることになるのでしょうか。

タイトルの「世傳(せいでん)」とは、代々に渡って伝えていくという意味だそうです。元禄以降に出現した大商人が明治以降の日本を支えていくことを思うと、この時代に幸が歩む道は、現代まで伝わっているのでしょう。「金と銀」とはもちろんお金のことですが、幸が幼い日に兄から教わった、武庫川が夕陽に煌めく色のことも意味しています。壮大な物語のスタートにふさわしい、印象的な場面です。

2017/12