りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ブラックオアホワイト(浅田次郎)

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急死した旧友の葬儀で久々に再会した都築から、自宅の高層マンションに招かれた「私」は、彼の不思議な物語を聞かされます。それは、夢が現実に絡み合う中で転落していった男の半世紀だったのです。

元満鉄理事だった祖父が遺した財産を持ち、バブル時代にエリート商社マンだった都築は、商材の買い付けに出かけたスイスのホテルでバトラーから2つの枕を渡されます。白い枕を選んだ夜には幸福な夢を見たものの、翌晩に黒い枕を選んだ際に見た悪夢に引きずられるようにして取引に失敗。しかも、2つの枕はその後も彼の人生に関わり続けるのです。

休暇で訪れたパラオでは太平洋戦争で玉砕した軍の一員となり、出張先のインドでは妻が夫に殉死する旧弊が残る時代に引き込まれ、北京に赴任した際には清朝末期の混乱を体験し、京都で賓客を接待した際には幕末の武士となるのです。誰とも知れない理想の女性が傍らにいることは共通しているのですが、黒い枕を選ぶたびに、彼は人生の転機でしくじり続けます。

しかし都築はなぜ、黒い枕を選んでしまうのでしょう。中国の故事にあるように「人生は一炊の夢」でしかないのでしょうが、ここまで来ると自虐趣味を越えていますね。あるいは黒い枕と悪夢の話は、しくじった人生に対して責任転嫁するための作り話でしかないのかもしれません。やがて「私」は、都築に対してある疑念を抱くのですが・・。

明確な謎解きや説明などないままに終わる物語ですが、日本の戦後の繁栄を「夢と現の混在」でしかなたったという形で相対化してみせた作品なのでしょう。

2017/12