りぼんの読書ノート

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眠れる虎(ロザムンド・ピルチャー)

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1924年生まれながら、開放的で芸術家も多いコーンウォールに生まれ育った著者の作品には、自由な価値観が溢れているようです。

生まれる前に父を戦争で失くし、 出生と同時に母を失くして、ロンドンで厳格な祖母に育てられたセリーナは20歳。今また祖母を失い、祖母の財産を管理していた弁護士のもとに嫁ごうとしています。しかし許婚から贈られた1冊の本が、全てを変えてしまいます。スペインのバレアス諸島にある小さな島にたどり着いて人生を楽しんでいるという著者の写真が、父親とそっくりだったのです。

そういえばノルマンジーで行方不明になった父親の死は確認されていませんでした。ひょっとして父親はスペインで生きているのでしょうか。「仮にそうだとしても、眠った虎を起こすべきではない」という許婚の忠告に逆らって、1枚の写真を手掛かりにスペインに向かったセリーナだったのですが・・。

スペインの男性はまだ37歳と若く、父親ではありえないことは物語の早い段階で明かされます。しかし、トラブル続きの旅の末にたどりついた地中海の島で、明るい太陽の日差しのもとで 色彩の豊かな暮らしを体験するセリーナの心は開かれていきます。「眠れる虎」とは、自由な暮らしに憧れなる心を抑えていたセリーナの心だったのでしょう。彼女が発散していく開放感は、第二作目の執筆に苦しんでいたジョージのスランプにも好影響を与えていきます。

ある日どこかでエトランゼ」というテーマは、「旅情」、[慕情]、「ローマの休日」などの映画にも共通する旅先でのロマンスものですが、心の傷を乗り越えて、不器用ながら自分らしく生きようとする人たちの姿には、時代を越えて心を撃たれるのです。

2017/12