仕事や生活に疲れている30代男女の出会いの物語。大阪のデザイン事務所に勤務しつつライティングの副業もしている佐藤奈加子と、建設会社に勤務して東京と大阪を行き来している佐藤重信。偶然仕事で出会った2人は、互いに同じ年の1月4日生まれであることを知って驚きますが、とりあえずはそれだけの話。しかしその後、ふとした折にお互いのことを思い出すようになるのです。
同僚からの理不尽な仕打ち。仕事関係での嫌な思い。結婚を焦らす家族に対する複雑な気持ち。別れてしまった元恋人への虚しい思い。普通に仕事をし、普通に生活しているだけで、疲れることもあるし、落ち込むこともある。それに加えて理不尽と思える出来事もたくさん起こってしまう。そんな時に、なんでも話し合える人がいてくれたなら、それだけで生きる力が湧いてくる。物語は2人が再会する場面で終わりますが、彼らのことを知ってしまった読者なら、2人はお似合いだと思うはず。ハッピーエンドを予感させてくれます。
併録の短編「オノウエさんの不在」は、模範としてきた先輩が会社で干されて辞めるらしいという噂を聞いて悩む後輩たちの物語。往々にして理不尽で残酷な存在である会社というものと、どのようなスタンスで向き合っていくのかは大事なことですね。この体験をくぐり抜けたことで、彼らは社畜の道を歩むことはなさそうです。本書を書いた2010年当時は、著者はまだ会社員との兼業作家だったはず。自らの体験を昇華させた作品といえるでしょう。
2022/10