りぼんの読書ノート

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小松とうさちゃん(絲山秋子)

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主人公の小松は未婚の52歳のおじさんで、身分も不安定で安月給にあえぐ大学非常勤講師。職場では不遇なものの、危機感もハングリー精神もなく、ただただ慎ましく暮らしています。そんな小松が、新幹線で「運命の出会い」をした同い年の女性に恋をしてしまいます。

何度か出会いを重ねたものの、その後どう進めていいかわからない小松が相談した相手が、一回り年下で飲み友達の「うさちゃん」こと宇佐美。妻子あるサラリーマンながら、家族には相手にされず、ネットゲームに明け暮れる宇佐美が、恋愛相談の相手にふさわしいかどうかは別にして、ようやく物語が進み始めます。

一方で小松に惚れられた長崎みどりも、強引な教え子の男性に振り回され、かなりワケアリの人生をおくっていました。本人や家族からの依頼を受けて、見ず知らずの入院患者のお見舞いに訪れるという「仕事」に、自分でも胡散臭さを感じている状態。

誰もが善良で孤独なのです。小松は冒険を避けてきた自分の人生に、宇佐美はネットゲーム内でのバーチャルな人間関係に、みどりは詐欺まがいの仕事をやめられないことに、それぞれうんざりしているのです。中年おじさんの小松の恋は、そのような状況を打開するパワーを秘めているのでしょうか。

併録されている中編「ネクトンについて考えても意味がない」は、老女とミズクラゲが、海の中で意識を通わせる幻想的な物語。どこか「小松とうさちゃんとみどり」の関係に共通するものを感じます。

2016/9