りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜、僕らは輪になって歩く(ダニエル・アラルコン)

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内戦と行方不明者の情報と記憶を葬り去ろうとする南米の架空の国で、消極的な抵抗を行った報道者たちの姿を描いたロスト・シティ・レディオの著者の新作です。

内戦時に「間抜けの大統領」という作品を上演して逮捕された過去を持つ劇作家が、内戦終結後に小劇団を再結成。アンデスの内陸部を巡る地方巡業を始めます。メンバーは、劇作家兼大統領役のヘンリー、以前からの劇団員のパタラルガ、ヘンリーの信奉者で新たに加わった青年ネルソン。しかし、田舎町の民家、バー、講堂、広場などでの公演を繰り返す中で、3人の間の不協和音も高まっていくのでした。

巡業は、ヘンリーの同性の恋人で獄死したロヘリオの故郷の村にたどり着いたところで終わることになります。そこで出会ったロヘリオの認知症の母親は息子の死を知らず、粗暴な兄はネルソンに対して、ロヘリオの身代わりを演じることを求めるのですが・・。やがて事件が起こります。

本書は、その村でネルソンに出会った「僕」が、ジャーナリストとなって事件の真相を明らかにするために、ネルソンの関係者にインタビューを重ねた結果、綴った作品という体裁を取っています。だからネルソンをはじめとする登場人物の姿は、「誰かによって語られた内容が再構成された」ものなのでしょう。そこには、演技や、虚飾や、嘘は混じっていないのでしょうか。

内戦が行われた国という舞台で「演じることと書くこと」の無力さを感じつつ、それでも文芸の力をあきらめない作品は、喪失感に満ちています。

2016/9